食べるものと着るもの、寝るところがあれば、人間は生きていけるし、
それらのクオリティが高ければ、十分楽しく生きていける。
だけど、人間はそれだけじゃ足りないらしい。
小説や映画、絵画や写真を、どうして人間はこんなにも必要とするんだろう。
どうして、世界をもう一つ、作ろうとするんだろう。
そこに必ずあるのは「物語」だ。
人間は、どうして物語がないと生きられないんだろうか?
いつか、美術の作品展の設営を手伝っていたとき。
まっ白い大きな壁の間近に立っていたら、
突然クラクラして、気持ち悪くなってしまったことがある。
距離感や方向感覚がなくなってしまったからみたいだ。
ほんとうに何もない空間って、恐ろしいだろうな。
どこからどこまでが自分かわからなくなりそうじゃないか。
真っ暗闇の中、人肌の塩水に浸かるというアイソレーション・カプセルだって、
予め時間が知らされていなかったら、
リラクゼーションどころか、発狂してしまうんじゃないの?
よく、「人と比べるのは無意味」「自分は自分」などと言われるけれど、
実際は、何らかの対象物がないと、人間って生きられない、
少なくとも、生きるのが難しいんじゃないのかなあ。
人と自分を比べてばかりの人生なんてイヤだけど、
物語だったら、
自分と近しいものであっても、無関係なものであっても、
この世界における自分の立ち位置のようなものを、
やんわりと示してくれそう。座標軸のような役割を果たしてくれるんだ。
昔の船乗りが、空の星を見て船の位置を知ったみたいに。
物語は、私たち一人ひとりの中にだってある。
生きているうちに自動生成されてきたこの人生は、
まさに物語。(別にドラマチックじゃないけど)
私たちは無意識のうちにこの物語に沿って生きている。
幸不幸は初期設定――運――に大きく左右されていることは間違いないが、
設定だけで物語が進むわけじゃないしね。
プレイヤーである自分のアドリブ一つで方向は変わる。
っていう主人公マインドがあれば、
自分の物語を自分の望む方向に進めることができるのかな。
あれ? 何の話だっけ??