内科の待合室に、80代の女性と60前後の息子らしい男性が座っていた。
(お母さんに付き添ってあげてるんだな、親孝行な息子さんだな)
そう思っていたら、聞こえてくるのはお母さんに対する小言ばかり。
しかもだいぶネチネチと機嫌が悪そう。
「なんでそれ昨日のうちにやっとかないの?
普通来る前にやるでしょ、今来てここでできないでしょ」
「そんなで来られたってお医者さん困っちゃうよ? 迷惑なんだよ?」
「だから昨日確認したのに。なんでそういう嘘つくの?」
どうやら、便を採って持ってくるはずだったのに、
お母さんは用意してなかったらしい。
そもそも「排便」という言葉がわからなかったみたい。
息子にキレられて、お母さんは少し恥ずかしそうに、
でもシラを切り通す態度が見え見え。
詰められると聞こえないふりをしたり、
急に陽気になって、話題を変えたり。
そんなお母さんの態度にますます苛立ちを募らせる息子。
二言目には、
「なにそれ、意味分かんない!」
を繰り返していた。
あるよなーこういう会話、
私も実家の母とこういうバトルよくするもん。
でも、他人からはこう見えるんだな。
よく、道端でダダをこねて動かなくなった子をガミガミ叱りつけてる親を見て、
「あんなに小さい子に、そんな怒鳴らなくても…」
なんてつい余計なお世話で思っちゃうけど、あれと一緒なんだな。
仕方ないじゃない、赤ちゃんなんだもの。
仕方ないじゃない、おばあちゃんなんだもの。
付き添ってる息子さんは、当然お母さんを心配している。
でも、かつてはできていたり、理解できていたりした事が、
少しずつできなくなっていく母を、認めたくないのかもしれない。
本当は、怯えているのかもしれない。
それを、苛立ちや怒りとして表現しているのかもしれない。
一方お母さんも、衰えていく自分の知力にびっくりしたり、
それを息子に悟られたくなくて、
ついついウソを言ってしまうんだろう。
母としての威厳を失うまい、心配かけるまいと一生懸命なのだ。
衰えていく人に正論をぶつけても仕方ないね。
それで改善することがないのならなおさら。
次、帰省したときは、ちょっと母に優しくできそうだわ。