多様な体験

「教育格差」ってしばしば語られて、確かにそうなんだろうなーと思う反面、
「本当にそうか?」と思うこともけっこうある。

最近よく聞くのが、
「所得の多い世帯に比べて、少ない世帯の子供は、
学校以外での体験が少ない」
というもの。

博物館や観劇、旅行などの体験をさせることは、
確かに親の所得が多くないと難しいかもしれない。
高価な用具を使う部活動、ピアノや水泳などの習い事も、
一定の費用がかかる。
そういう体験を希望する子供の願いが叶わないのは、
心が痛む。

でも、「体験格差」と聞いてよく思い出すのが、
ジャズプレイヤーを目指してNYに旅立った友達Aちゃんのこと。

陽気で頑張り屋のAちゃんのパパはトラックドライバー。
特に裕福な家庭ではなかったそうだ。

でも、パパは毎年夏になると、トラックに家族全員を乗せて海辺に連れていき、
釣った魚を焼き持参の米を炊き、そこで1週間ぐらい過ごしたそうだ。
夜はトラックの荷台に宿泊し、子供たちは海で遊び放題。
それは楽しい思い出だと、Eちゃんは楽しそうに語っていた。


きょうだいも多かったEちゃん、自力で音大に入ったものの学費が続かず中退。
しかしいろんなバンドに顔を出してセッションを重ね、
ある日NYに旅立った。

最後に会った日、
「ユキちゃんあたしね、冒険がしたいんだよ!」
と言った彼女の晴れやかな顔が忘れられない。

NYで修業したものの目立った活躍はできなかったようだが、
そこで知り合ったミュージシャンと結婚、彼の母国で出産したそうだ。
結婚祝いを贈ったら、彼女の名前を冠した曲を吹き込んだ、
新郎の作品であるCDを送ってきてくれた。

911のとき、心配になって電話して元気なことを確認したのが最後で、
それ以来行方はわからない。
でも彼女のことだから、きっとどこかで、元気にしていることだろう。

Eちゃんパパが贈ってくれた夏の思い出は、
今はコンプライアンス関係でちょっと難しいかもしれないが、
お金をかけなくてもできる、豊かな体験ってたくさんあると思うんだ。
近所にいる虫や植物を観察するだけだって、じゅうぶん豊かな体験になりうる。
図書館は無料でその手伝いをしてくれる。
願わくは、親が無理でもその後押しをしてくれる誰かがいてほしい……

高偏差値校に入る、高収入の仕事に就く、
それとは別の豊かな人生を、そんな体験が築いてくれるかもしれないと思う。

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