自分の空間を手に入れた

むすめが独立した。
一人暮らしするいとこたちに憧れ、「社会人になったら私も」と、インテリア記事を切り抜いたり、IKEAのカタログを読みふけったり、イメージトレーニングをしてきた。

何しろ、我が家は平凡な田の字マンションで、本来は3LDK。一部屋をピアノ用の防音室にしてしまったので、二人の子供たちに与えることができたのは9畳の一室のみだった。男女のきょうだいなので、上の子(むすめ)の中学入学に際して、部屋をアコーディオンカーテンで仕切り、天井付けの照明を二つに増やしただけで対応してきた。
完全な個室ではないので、友達も呼びにくいし、いろいろ不満はあったようだが、部屋数を増やすために住み替えるのも面倒でここまで来てしまった。

コロナのせいもあり、予定よりも独立が遅れたが、その分資金も貯まって、希望通りの物件が見つかった。引っ越し当日は、むすめが借りてきたハイエースに家族4人が乗り込み、あっという間に荷物の移動は終わった。

今まで親が使っていた6畳の寝室にはむすこが入居し、ギターやらオーディオやらを並べて満足げである。9畳のアコーディオンカーテンの片側を我々が寝室とし、むすめがいた側がまるまる空いた。ここが、私のスペースとなった。

防音室はなかば夫のスペースでもあり、彼の私物もここに置いてある。ところが、ずっと家で仕事をしてきた私の部屋って、今までなかったのだ。

以前は6畳の寝室の片隅の1畳もない空間を無理やり仕切って小さな机を置き、そこを仕事場にしていたが、いつからか、そこで仕事をするのがつらくてたまらなくなってしまった。かといって、リビングでは落ち着かない。いつからか、台所に折りたたみテーブルとノートパソコンを持ち込み、そこを仕事場とする日々が続いた。うちの台所、3畳しかないというのに!

その狭さから解放され、今、かつてないほど恵まれたスペースを手に入れた。パソコン用の机と、むすめが置いていったタンスが一竿、ここ数年凝り出した洋裁用に、アイロンや製図用の机まで並べているのである。寝室の隅や台所の隅からの大変革である。

しかし、机を置く場所がなかなか定まらない。私は、何か書いているところを人に見られるのが極端にイヤなのだ。寝室に入ろうとする夫が机のそばを通り過ぎるたびイライラするし、「何書いてるの」なんて尋ねられると、反射的にひっぱたきたくなってしまう。この前も、ついカッとなって険悪な雰囲気になってしまった。彼には何の落ち度もないのに……。でも、こういう同業者、けっこう多いと思う。なにか書いたり描いたりするのって、完全に一人にならないと難しい。子供が小さい頃は、全員が寝静まったよ墓の2時頃がいちばんはかどったものだ。

むすめが自分の城を手に入れて、私も自分のスペースを手に入れたわけだが、私の試行錯誤はまだしばらく続く見込みである。

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