今日は午前中に雷が鳴っていた。
薄曇りの空が、気がついた時には夕方のような暗さになっていた。
急に降り出した雨音も聞こえる。
遠くに轟いていた雷鳴が、次第に近くなってくる。
それにしたがって、雨はますます激しくなる。
雨は手すりに叩きつけるだけではなく、
霧状になって、日よけの隙間からベランダに入り込む。
近くに落ちた雷の激しい音。
聞きながら、生まれた家で聞いていた雷の音を思い出す。
地元は雷の多い地方で、生家は雷の通り道にあたっていた。
夏になれば雷は頻繁に発生し、
子供の私は、夕立の埃っぽい匂いを嗅ぎながら、
遠くに走る稲妻を一人で眺めていたのを覚えている。
雷は、大きな川と並走する国道に沿って移動していく。
しばしば落雷があり、何度も落ちた場所には小さな祠が建てられていた。
生家にも一度ならず落ちたことがあるが、それは珍しいことではなく、
そんな家はいくらもあった。
時折火災を招くことはあるものの、雷は恐ろしいものではなく、
ともに暮らす自然の一部であり、夏に訪れる友達のようなもの。
大人たちの言動から、私もそう思っていた。
母が言ったことがある。
「私が子供の頃の雷は、こんなものじゃなかった。
まだ朝早い、8時や9時という時間から、
北の方の空が黒いほど青くなって、雷が鳴り始める。
恐ろしいほどの青さだった。
今の雷は、あっさりしたものだ。」
夏の朝、母の語ったその黒いほどの青い空を想像しようとする。
どんな青さだったんだろうか。
もうそれは地球上の空ではなくて、成層圏のむこう、
宇宙の色だったのかもしれない。
違うかもしれない。
雷の進路はその後変わって、
今では生家の付近にあまり発生しなくなったそうだ。
それなのに、近くの路上には、
それまでなかった「冠水注意」の標識が立つようになった。